ドイツ発自動車技術専門誌 ATZ
未来の自動車のための先進アルミニウム技術
自動車業界が直面する課題
世界的に自動車業界は、ますます厳格化される排出ガス規制への対応が求められている。特に、CO₂排出量削減に関する法制は、自動車設計における重要な課題となっている。加えて、電動モビリティの様々な展開により、車両の軽量化はこれまで以上に重要な挑戦となっている。
こうした状況の中で、エンジンや排気システムの改良だけでなく、軽量化設計の強化が解決策として注目されている。この文脈においては、アルミニウムは機能的要件を満たしつつ車両重量を削減できる、先進的な素材として位置付けられている。実際、車両構造に使用されるアルミニウム圧延製品の比率は、近年着実に増加している。
Markus Bereszewski
ATZ 編集長
Springer Fachmedien Wiesbaden GmbH
シュプリンガー・ネイチャー・グループ(Springer Nature)
この進展の大きな要因のひとつは、日本の株式会社UACJのようなグローバルアルミニウムメーカーが、高度なアルミ合金の開発と、効率的な加工技術の実用化にある。UACJは現在、ArconicおよびNovelisに次ぐ、世界第3位の圧延製品生産能力を誇っている。およそ300名の高度な専門性を有する研究開発エンジニアが、自動車の軽量化に資するアルミ自動車部品の技術開発に従事している。
こうした流れの中で、アルミ部材の接合技術が重要な役割を担っている。従来のリベット留め、ねじ止め、溶接などの方法に加えて、UACJは、嵌合(かん合)、機械的接合や摩擦攪拌接合(FSW)、摩擦攪拌スポット溶接(FSSW)など、さまざまな先進的手法の完成度を高めている。これらの優れた技術により、リベットを使用せずとも、強固な接合が可能となった。またUACJの研究チームは、アルミとスチール、あるいはアルミと樹脂といった異種材料間の接合技術の確立にも取り組んでいる。
こうした研究成果により、アルミ合金は車体およびシャシー構造の軽量化において、今や重要な役割を果たしており、押出成形されたアルミ合金製バンパーや、フレーム構造部品が広く採用されている。
※ATZ は、創刊1906年、欧州やドイツを代表する自動車技術専門誌
※Springer Natureは、ドイツとイギリスに本拠を置く学術出版の世界企業
(この論説内容は、自動車技術専門誌ATZ extra 発行当時のものです)
ATZ extra 特集記事
「最適なアルミ材料を、
自動車メーカーとともに開発・供給」
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新倉 昭男 工学博士(Ph.D)
株式会社UACJ
R&Dセンター 第5開発部長
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(所属部門・役職は、自動車技術専門誌ATZのインタビュー当時のものです)
INTERVIEW
Q:ここ数年のアルミ圧延材開発の進展について教えてください。
近年の車両軽量化の流れの中で、自動車のボディ外板用アルミ板に対する需要が急激に増えてきました。とくに北米を中心に世界中からの要望が増えてきたことを受けて、UACJでは高品質なアルミ合金板を安定供給するための生産体制を強化しています。
Q:研究開発部門について教えてください。
UACJのR&D部門は、およそ300名の専門研究者からなるアルミ圧延メーカーとして、世界最大規模の体制です。アルミ合金や加工技術の開発はもちろん、解析技術(CAEシミュレーション)や接合技術、さらには表面処理や製造プロセスに関する技術開発まで、幅広く手がけています。
Q:自動車分野では、どのような研究をしていますか?
車両の軽量化によってCO₂排出量を減らすという目的のもとで、強度と加工性に優れた材料を目指して、さまざまな角度から研究を進めています。もちろん、加工技術の確立やCAE解析の高度化は不可欠ですが、今いちばん力を入れているのは、異種材料や板厚の違う材料をどう接合するかといった「接合技術」の分野です。
Q:これまでに得られた自動車材料向けの成果は?
自動車向けのアルミ合金板では、6000系のボディ用アルミ合金を日本で最も早く開発し始めました。現在では、世界最高水準のヘミング性(折り返し加工性)を持つ製品を提供しています。アルミ押出材については、7000系の合金を開発していて、押出性、強度、溶接性、耐食性のバランスに優れています。たとえばバンパー部品などに使われており、車体の軽量化に大きく貢献しています。
Q:電気自動車(EV)の登場はアルミ開発にどう影響していますか?
EVはモーターは小型でも、リチウムイオン電池は大型で重たいため、車体全体の構造設計を大きく変える必要があります。こうした要求に応えるために、アルミ合金押出形材の利用に注目が集まっており、それに合わせた加工・接合技術の開発が進められています。
Q:UACJの今後の自動車用材料開発の方針は?
いま、材料を用途に応じて適材適所で使い分ける「マルチマテリアル化」の流れが加速していて、アルミの存在感も日々高まっていると感じています。UACJとしての自動車部品開発の歴史はまだ浅いですが、世界有数の研究開発体制とグローバルな生産・供給ネットワークを活かして、お客様と一緒に最適な材料・部材を開発・供給していきたいと考えています。ご要望があれば、ぜひUACJにお声がけください。