アルミニウムのうち、純度99%以上のものを純アルミニウムと呼び、様々な元素を添加して強度を高めるなど、性質を改善したものをアルミ合金と呼んでいる。諸特性は添加する元素の種類と添加量によって変化する。アルミ合金は、展伸材用アルミ合金と鋳物用アルミ合金に分類され、それぞれに熱処理で材料の性質を調整する熱処理型合金と、熱処理を行わない非熱処理型合金に分けられる。
展伸材用アルミ合金は、1000番台の純アルミニウムから7000番台のAl-Zn-Mg系合金まで、添加元素の種類により、千の位で示される合金系シリーズに分類される。展伸材は、ロールを用いた圧延加工による板・箔や、押出加工による形材・管・棒などさまざまな形状に加工される材料で、鍛造品もこれらに含まれる。鋳物用アルミ合金は砂型・金型鋳物用合金とダイカスト用合金の二 つの系統がある。通常ダイカストは熱処理をしない。このページの体系図では、鋳物用合金の方が展伸材用合金より種類が多いように見えるが、実際は展伸材用合金の種類は非常に多く、利用目的や用途、部材の形状によって使い分けされている。
アルミ展伸材用合金の一般的性質
1000系アルミニウム
1000系はアルミニウムの成分が99.00%以上の工業用純アルミニウム系材料で、1100、1200が代表的な合金だ。1050、1070、1085はそれぞれのアルミニウム純度が99.50%、99.70%、99.85%以上の純アルミニウムであることを示しており、数字が大きいほど純度が高くなる。
この系の材料の強度は低いが、耐食性、加工性、表面処理性などに非常に優れており、食品、化学品、日用品、電気機器、装飾品、器物など、その用途範囲は非常に広い。1060、1070は、導電性と熱伝導性に優れるため、送配電用機器や放熱部品用として幅広く用いられている。
また、表面処理性にすぐれ、陽極酸化処理(アルマイト)によりアルミ独特の美しい色調が得られ光沢の低下も少ないことから、ネームプレートや反射板などの最適な材料となっている。1100は微量のCuの添加により、アルマイト処理後の良好な光沢や白っぽい外観が得られる独特な材料だ。
2000系合金
Al-Cu系の熱処理型合金は、ジュラルミン、超ジュラルミンの名称で知られる2017、2024が代表的な合金だ。鋼材に匹敵する優れた強度と良好な切削加工性が特長だが、耐食性の点で劣るため、厳しい腐食環境での用途では十分な防食処理を必要とする。一例として、航空機用としての利用では母材に純アルミニウムを両表面に合わせ圧延したクラッド材が使用されている。
この系は切削性が良く、2011をはじめとする快削合金は、高速加工性に優れるため、自動旋盤用として輸送機器や機械部品に幅広く用いられている。2014は鍛造用材料の代表的な合金で、強度が高く、成形性も比較的良好なため、車両や自動車部品のほか構造材に用いられる。
なお、溶接性は他の系に比べ劣るため、接合方法は主にリベット・ボルトなどの機械的接合や抵抗スポット溶接などが用いられる。
3000系合金
Al-Mn系の非熱処理型合金は、3003、3004が代表的な合金だ。Mnの添加により、純アルミニウムの優れた加工性、耐食性は同等のまま、強度を1000系より10〜20%高めており、深絞り性にも優れている。このため、器物・建材・容器、オフセット印刷板などの分野で広く用いられている。
3004、3104は、3003に相当する合金に1%程度のMgを添加して、さらに強度を高めた合金で、代表的な用途としては、DI缶(DI: Drawing and Ironing=絞りしごき)と呼ばれる飲料用アルミ缶のボディ材(胴の部分)のほか、ヒートシンク、屋根・パネル材などの建材にも用いられている。
また、3003、3004は熱交換器用のクラッド材としての利用も多い。自動車の熱交換器用には、3003を芯材に、4343を皮材としてクラッド圧延したブレージングシートが使用されている。
4000系合金
Al-Si系の非熱処理型合金は、4032、4043が代表的な合金だ。4032はSiの添加により熱膨張率を抑えるとともに耐摩耗性を高め、また微量のCu、Ni、Mgの添加により耐熱性を向上させた合金で、鍛造材料としてピストンなどのエンジン部品類に広く用いられている。また熱膨張率が低いため、シリンダー、バルブ、軸受類にも使用されている。
4043は5%のSiを含有する代表的な溶接材料だ。溶融温度が低く溶着する金属の高温割れに対する抵抗が強いため、高温割れの発生しやすいAl-Mg-Si系合金やアルミ鋳物の溶接に適しており、MIG/TIG用溶接ワイヤ、溶接棒などの溶加材、ブレージングシートなどとして使用されている。他方では、4043はアルマイト処理により美しいグレー発色が得られるためビル建築の外装用パネルに使用されている。
5000系合金
Al-Mg系の非熱処理型合金は、Mg含有量が0.4%〜5%の合金で、耐食性、表面処理性にも優れ、その含有量により種類がとても多く利用範囲も広い。Mg含有量の少ない合金は装飾材や器物用に、Mg含有量の多い合金は強度が高く構造用材料や建材として使用される。
Mg含有量の少ない代表的な合金の5110は装飾材や器物用、5005は車両の内装材や建材用に利用されている。Mgを2.5%程度含有する中程度の強度の5052は汎用的な5000系合金として幅広く用いられている。Mg含有量の多い5083は、溶接構造用合金とも言われ、非熱処理合金の中で最高の強度をもち、溶接性・耐海水性・低温特性にも優れている。このため、船舶用部品、車両部品、低温用タンク、圧力容器などに使用されている。また、Mg含有量が多い5000系合金は、応力腐食割れを生じることがあるので留意することが大切だ。
6000系合金
Al-Mg-Si系の熱処理型合金は、強度、耐食性、表面処理性に優れる。6061、6063はその代表的な構造用材料だ。6061はCuを微量に添加して強度を高めた板材、6063は押出形材として挙げられ、特に6063はアルミ押出形材の代表的な合金として、建築用サッシなどの建材の他、自動車部品、車両部品・電気製品などに幅広く採用されている。押出加工性に優れ、中空のある複雑な断面形状でも高精度・高品質に成形でき、形材のほか、菅・棒など様々な材料形状で提供されている。
この系の合金は自動車のボディパネル用としての利用も進んでいる。6000系材料は塗装焼付処理工程で、強度が増加するベークハード性(BH性)という性質を持ち、同時にへこみにくさの指標となる耐デント性も向上する。これらの特性により、アルミ板の薄肉化と軽量化を実現できるとして現在のボディパネルの主流となっている。
7000系合金
この系の合金はアルミ合金のなかでもっとも高い強度をもつAl-Zn-Mg-Cu系合金と、Cuを含まない溶接構造用のAl-Zn-Mg合金に分類でき、高強度で軽量化を必要とする部品に利用されている。
7075は超々ジュラルミンと呼ばれるAl-Zn-Mg-Cu系の代表的な熱処理型合金で、航空機の構造材や航空宇宙機器、輸送用機器など軽量強度の構造材料として使用されている。超々ジュラルミン(7075)は、1936年に住友伸銅所の五十嵐勇博士により開発された材料だ。
7204はAl-Zn-Mg系の代表的な溶接構造用の熱処理型合金で、強度が高く、また溶接後の熱影響部も自然時効により母材に近い強度に回復する優れた継手効率が得られるため、鉄道車両や陸上構造物などに用いられている。なお、熱処理が適切でない場合などで応力腐食割れを生ずることがあり留意が必要だ。
展伸材用合金記号の読み方
自動車部品の要求特性に応じたアルミ合金選択
非熱処理型合金として1000系、3000系、4000系、5000系合金が挙げられる。1000系合金は耐食性と加工性に優れ、ヒートインシュレータなどの熱交部品に使われ、3000系合金は配管などに使われる。4000系合金は、耐熱性・耐摩耗性に優れており鍛造部品に用いられる。5000系合金は、中強度で成形性、耐食性、溶接性に優れるため、各種プレス成形部材に多用されている。
熱処理型合金は2000系、6000系、7000系合金が挙げられる。2000系合金の強度は鋼材に匹敵し、強度を必要とする部品に使用され、6000系、7000系の押出材、鍛造材はシャシー構造部品として多用されている。一例では、7000系の押出材により、軽量で高強度なバンパーレインフォースメントを実現している。また、6000系の板材はボディパネル用として利用が広がる。